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中小・個人塾のための実践論 [3]
「教育法」から「◯◯」に打ち出しを変化させたC塾

著者の紹介

森 智勝

(もり・ともかつ)

学習塾経営アドバイザー

17年間の塾経営を経て、塾専門のマーケティング勉強会(塾生獲得実践会)を設立。机上の空論ではなく、現場主義を貫くマーケティング手法を全国の塾に提供している。経営コンサルタント、スタッフ研修等を専門に行っているが、特に不調塾の立て直しには定評がある。

塾の使命は第一義的には言うまでもなく「成績向上」と「志望校合格」です。その責務を果たしてはじめて、付随する価値が輝きます。

よく、「当塾は成績向上を目指す塾ではありません。学問を通して困難に立ち向かう強い人間力を身に付けさせる塾です」旨を謳う塾を見掛けますが、それは成績向上を実現している塾だけに許される謳い文句です。そうでなければ、成績を向上させられないことの単なる言い訳と解釈されることでしょう。また、「困難に立ち向かう強い人間力」を望むのであれば、親は我が子を学習塾ではなく別の、例えばボーイスカウトのような団体に通わせるのではないでしょうか。

教育に対する理想を追求するあまり…

以前、「とある教育法」に熱心なC塾がありました。生徒は50人程度です。中小・個人塾の経営者にありがちな、教育に対する理想を追求する塾長さんでした。大らかな人柄で保護者からの信頼も厚く、生徒からも好かれていました。それなのになぜ、塾生が50人程度しか集まっていないのか、不思議に思ったものです。いろいろ調べて了解しました。

塾長は「とある教育法」に心酔するあまり、例えばチラシ、例えばホームページ、例えば入塾案内に、その教育法を前面に押し出していました。結果、一般の保護者からすると、いわゆる説教臭い内容になっていたのです。

私は仕事柄、その教育法の内容も知っていましたし、それが素晴らしいものだとも思っています。しかしそれは、あくまでも教育法であって、学習の指導法ではありません。一般の家庭からすれば、子どもの教育のことまで塾に口出しされたくないと思われても仕方がないことでしょう。

もちろん塾長と同様、その教育法に惚れ込む保護者もいます。塾生の保護者の多くは、その教育法を認め、積極的に受け入れていました。それがC塾の強さでもあり、生徒が増えない原因でもありました。例えは悪いのですが、一種の宗教団体のような趣を感じました。塾長自身は前述したように、誰にでもオープンで社交性があり、個人塾の経営者としては申し分ない人でした。それだけに地域からマニアックな、特殊な塾だと思われるのはもったいないと考えました。

その教育法は子どもの自律を促すには最適で、C塾は講師(ほとんどアルバイト大学生)ひとりに生徒6人という自立学習型指導塾なのですが、過去に東大生を何人も輩出するなど、指導実績も抜群です。

チラシやホームページで打ち出すべき順番が逆だった

塾長としては「とある教育法を導入しているから抜群の進学実績があることを強調したい」と思っていたようです。そのため、教育法の素晴らしさを強調する販促物(チラシ・ホームページ・入塾案内等)を作り上げました。が、マーケティング的に言えば順番が逆です。

「あの塾は凄い進学実績を叩き出しているが何故だろう。そうか、〇〇という教育法を実践しているからだ」と、後から気付かせるような戦略が正解です。どんなにその教育法が素晴らしくても、それを前面に押し出されると、多くの保護者は警戒します。また、塾を利用しようとしている家庭が望んでいるのは、教育ではなく指導であり、結果としての成績向上・志望校合格です。

私は塾長と相談して、マーケティング法(特に広告宣伝)を一新しました。教育法を奥に引っ込め、実績と指導法を訴えました。教育の一環として塾が取り組んでいた奉仕活動やリレーマラソンは、イベントとして紹介することにしました。C塾は講演会や映画鑑賞会等、様々な取り組みをしていたのですが、それまでは教育法の実践として紹介していたのです。

もちろん、教育法そのものを捨てたわけではありません。それどころか、教育法に基づく活動は以前にも増して活発になっていきました。ただ、それを前面に押し出すマーケティングをしなくなっただけです。

例えば生徒の自律(実践している教育法のキーワード)を促すため、空き部屋を改造して自習スペースを増設しました。特に高校生は、平日・日曜を問わず自習室に通う生徒が増え、合格実績の向上に貢献してくれました。そのため、小・中・高一貫指導塾としての評価が高まり、中3生の高校部継続率も飛躍的に改善しました。

 

保護者が求めているのは「成績向上」と「志望校合格」

結果、2年後のC塾は塾生が98人、ほぼ倍増することになりました。

教育法は学習指導のベースになるものであり、塾にとっても必要な概念です。しかし、それを買いに来る家庭はありません。例えて言うならば、レストランで拘(こだわり)りの小麦を使用していたとしても、その小麦を買いに来る客はいないのと同じです。やはり保護者は塾に、「成績向上」と「志望校合格」を買いに来るのです。

以前、某塾経営者から聞かれたことがあります。「つまらないけれど成績が上がる塾と、成績は上がらないが楽しい塾、どちらがいいのでしょう」と。私は答えました。「当然、前者です。楽しさを求めるなら、人は塾ではなくディズニーランドへ行きますよ」。全ての付加価値は、本筋の価値が確立されてはじめて、威力を発揮するものです。「成績が上がる」「志望校に合格する」が前提にあって、居心地のよさとか楽しさが生きてくるのです。