有事に備えての先回りした備えが必要
昨今のコロナウイルス対応をめぐり、学習塾はどうすればいいのか?まずは緊急事態宣言当時のことを振り返ります。安倍首相は、ここ2週間が大事だ、1ヶ月ほど学校を休講にしてほしいと言い、荻生田文部科学大臣は、「目安としては2週間くらい」学校休校をお願いしますと要請しました。それを受け、2週間で学校休校は終わると希望的観測の下に意思決定をした塾と、世界の感染状況を見ると感染拡大は続き、学校休校は長期に渡ると判断した塾とに分かれました。この判断は、3ヶ月近く学校休校が続いたわけですから、後者の判断が正しかったと言えます。しかし、だから長期間教室を閉め、オンライン授業を続けることが正解だったとは言えません。
結果論ではありますが、事前に今回のようなリスクに備えていた個別指導塾がなんとか変化に対応できたというのが結論となります。
まず、短期で学校が再開されると判断した塾は、個別指導では、塾を休講にして振替えると言う決定をすることになります。2週間程度なら振替で対応できると言う判断です。しかし、学校休校が1ヶ月に伸びてもまだ振替で対応できると考えてしまいます。しかし、学校休校は1ヶ月で終わらず、振替対応は限界を迎えます。その後、4月からオンライン授業を導入しようと判断しても、タブレット等は底をついていて、購入するのに2週間以上かかる状態で、すぐには開始できませんでした。4月に入ってもオンライン授業が実施できなかった塾は、決定的な打撃を受けます。振替も実施できず、授業料ももらえない事態になったのです。
また、学校休校が短期で終わると判断したクラス(集団)指導塾では、振替対応や授業動画の配信でしのごうとします。しかし、クラス指導の授業振替は、春休みとか夏休みを使わないと消化できません。そうすれば、講習会の売上を削るだけになります。ですから、授業を強行した塾も多数あります。
授業動画は、たいていの大手塾は普段から3,000円~4,000円程度で視聴できる体制を取っていますので、その動画を見せたところも多かったのですが、これは当然保護者のクレームになります。通常の授業料は、その何倍もするからです。
神奈川県のある大手塾などは、授業料をこの動画視聴料と同等に下げると言う対応をしました。しかし、そんなことをすれば経営上大きな痛手をこうむります。
そこで、いつものクラス編成と同様の授業を行い、それをライブ配信し、実際の授業を受けている時と同じようなオンライン授業に移行することになります。一応、ズームで生徒の顔を見ながらの授業になりますので、双方向の授業を謳えますが、小さな画面に多くの生徒の顔が映っても、講師は誰が誰だか分かりません。実際とは全く異なる授業にならざるを得ません。
ですから、クラス指導のオンライン授業は、満足度は高くはなりませんでした。一方、個別指導も4月くらいからオンライン授業を実施する塾が増えてきますが、こちらはズームの画面に一人または二人の顔を映しながら実施できますので、思った以上に満足度は高くなりました。
学校休校が長引くと判断した塾は、即座にオンライン授業の準備にかかります。しかし、2月27日に学校休校要請が出され、地方自治体の学校休校決定は28日や29日になり、3月2日から休校ですから、いくら決定が早くても3月2からオンライン授業を実施することはできません。各家庭に、パソコンやタブレット端末、生徒が使えるスマホなどが有るかの調査も必要です。無い場合にはタブレットを貸し出すとか、教室でタブレットを使わせるとかの判断も必要です。しかし、少数ですが、それに備えてタブレットを大量に購入するなど準備をしていた塾も有りました。3月の第2週くらいからオンライン授業を実施できた塾は、学校休校要請の前に、すでに準備を整えていたのです。
早期に、オンライン授業ができた個別指導塾は、生徒・保護者の満足度の高さに驚くことになります。授業とは双方向のコミュニケーションであるということを再確認することになります。そしてそれはオンラインでも支障なくできるということが分かります。最初は、教材のPDF化が遅れたり、講師が教材を持っていなくて、生徒の教材を見づらかったりとかの問題も起こりますが、徐々に問題は解消されて行きます。
しかし、クラス指導ではそう簡単にはいきません。動画を配信しても満足度は上がらず、いろいろな工夫が必要になります。早くからオンライン授業をやろうと決断していた塾は、どうすれば満足度が上がるかを考え、通常のクラス編成以上のレベル別動画を作成した塾も有ります。普段は2段階のレベル別のクラス分けを行っていますが、5段階のレベル別の動画を作成し、普段よりも満足度が高くなるのではと期待しましたが、むしろクレームになり、元のクラスごとのライブ配信授業に移行することになりました。学習塾のサービスは、授業が分かり易いということより、双方向のコミュニケーションや学習進捗管理の方が重要だということがあきらかになります。
クラス指導のオンライン授業は、複数のズームを使い生徒の顔が見やすいようにするとか、オンライン自習室で学習管理をするとか、オンラインホームルームで学習進捗管理をするとか、いろいろな工夫を重ねることになります。クラス指導の塾によって多種多様のオンライン授業が生れます。しかし、無料動画や安い映像教材やスタディサプリや進研ゼミなどの通信教育系の商品と比較され、総じて満足度は上がりませんでした。
【連載:コロナ危機の中の学習塾】
Vol.1 困惑する学習塾。緊急事態宣言下から学ぶものはなにか?
Vol.2 塾の授業がオンライン化するだけでは代替できなかったもの
Vol.3 各塾の売上確保策と伸長策
Vol.4 迷ったときは消費者の声に耳を傾ける
Vol.5 生徒・保護者のITリテラシーの向上